財形貯蓄(ザイケイ・チョチク)をしている方は多いと思います。
これは企業の従業員に対する福利厚生制度のひとつなのですが、会社に財形貯蓄制度があるからとか、または周りの人に勧められたから何となく、といった理由で利用されている方もいるでしょう。
今回は、財形貯蓄とはどのような制度なのかをみていきます。
▼誰でも利用できる訳ではない、財形貯蓄とは?
財形制度(ざいけい・せいど)とは、厚生労働省所管の「勤労者財産形成促進法」に基づいて導入された勤労者が財産を形成するための制度であり、勤労者の貯蓄や住宅購入などの財産形成を促進することで勤労者の生活の安定や日本経済の発展を図ることを目的としています。
この勤労者財産形成制度は、大きく「財形貯蓄制度」「財形給付金・基金制度」「財形融資制度」の3つに別れ、そのうちの「財形貯蓄制度」がいわゆる「財形貯蓄」になります。
財形貯蓄は、誰でも利用できるわけではなく、この制度を導入している企業の従業員しか対象になりません。通常は、勤務先が取り扱い金融機関を選定し、労使協定を結んだ上で導入しています。ですから、勤め先によって取り扱い金融機関、つまり運用商品も異なってきます。具体的には、各企業が、財形貯蓄を希望する従業員の給与から一定の金額を天引きし、取り扱い金融機関にまとめて送金するという形がとられます。
▼財形貯蓄には3つの種類がある?
財形貯蓄には、積み立てをする目的に応じて「一般財形(いっぱん・ざいけい)貯蓄」「財形年金(ざいけい・ねんきん)貯蓄」「財形住宅(ざいけい・じゅうたく)貯蓄」の3つの制度があります。
「一般」は、貯蓄目的に制限はありませんので、どのような使途でも問題なく自由に使えます。そのかわりに税金面での優偶措置はありません。
「年金」は、文字どおり年金として受け取ることを目的としており、満60歳以降に5年以上の年金で受け取ることになります。ですから、例えば60歳で退職した方が、公的年金が支給されるまでの5年間、公的年金の代替として受け取る、といったことも可能です。
「住宅」は、住宅の取得を目的としているため、使途は住宅の取得や増改築費用に限られます。また、その取得等にも一定の要件があります。
「年金」と「住宅」は、使途が限定される分、税金面で優偶措置があり、「年金」と「住宅」両方合わせて元本550万円までの利子が非課税になります(ただし「年金」で運用商品が保険等の場合、若干取り扱いが異なります)。
この550万円というのは、複利で積み立てられた元本を指しますので、過去に発生した利息で元本に組み込まれた分も含むことになります。また、非課税枠を超えた場合は、超えた部分にかかる利子のみが課税となるわけではなく、非課税枠の部分にかかる利子も含めて課税扱いとなります。すなわち非課税枠そのものがなくなるということになりますから、注意が必要です。
さらに、目的外の払い出しには、ペナルティとして過去5年間に非課税で支払われた利息に対して課税(預貯金等の場合)されますので、併せて注意しましょう。
なお、財形貯蓄に用いられる金融商品は、預金、投資信託、国債など様々ですが、預金保険制度の対象となる金融商品で運用されている場合、財形貯蓄で蓄えた分についても預金保険制度の対象となります。
したがって、勤め先の財形取扱機関とご自分が普段利用している銀行が同じである場合は、預金保険制度で保護されるのは、すでに預けている預金と財形貯蓄で積み立てた分の合計1,000万円までとなりますので、これまた注意が必要です。
▼どんなメリットがあるの?
財形貯蓄のメリットとしては、先に挙げた非課税制度があるほか、給与天引きですので知らず知らずのうちに貯蓄ができる、住宅購入時などに融資が受けられる制度がある、といったことが挙げられます。
ちなみに住宅購入時の融資制度は「住宅」を行っていなくても、「一般」や「年金」の積み立てを1年以上継続して行っていて、残高が50万円以上あれば受けることができます。また、「一般」については、一定期間が過ぎればいつでも払い戻しが可能です。一般的には普通預金で運用されることはありませんから、普通預金に入れておくよりは、少しだけ有利になると言えるでしょう。
ちなみに、筆者が金融機関に勤めていた頃の話ですが、残高のお知らせが定期的に発行されるものの、給与天引きでいくら貯まっているか見えにくいということを利用し、ご家族に内緒で引き出しをして自身のお小遣いにしていた同僚もいました。
▼退職したらどうなるの?
退職時に財形貯蓄を解約してしまう人が多いのですが、退職後、2年以内に再就職し、再就職先の会社に財形制度があれば、持ち運びができます。この場合は、再就職先での手続きが必要となります。
再就職しない場合や再就職先に財形制度がない場合は、継続ができず、解約せざるを得ません。この場合、「年金」や「住宅」については、「目的外」となりますので、前述したように過去に遡って課税されます。また、運用商品によっては解約した結果、元本割れを起こす可能性がありますので、どのような商品で運用されているのかをあらかじめ知っておきましょう。
ちなみに出向する場合の取り扱いについては、給与の負担がどちらになるかによって異なってきます。給与の支払いが出向元の場合、今までと同じく積み立てが可能となりますが、給与の支払いが出向先であれば、籍は出向元であっても転職時と同じ手続きが必要になるわけです。
▼あなたの資産形成を推進するために
今回は財形貯蓄について触れましたが、企業によっては社内預金や従業員持ち株制度など様々な福利厚生の制度があります。
住宅、教育、老後などライフイベントを実現するために欠かせない「資産形成」を推進するために、まずはあなたの勤務する会社の福利厚生を調べて活用してみてはいかがでしょうか。
株式会社 住まいと保険と資産管理
ファイナンシャルプランナー 吉田 美帆