「障害者自立支援法」の廃止が新政権下で明言されました。
「痛みを分かち合う」と3年前に当時の内閣で成立し、従来の制度から自己負担が増えることになったこの法律ですが、廃止ということになったらどのような影響がでるのでしょうか。
2006年以前、障害者の生活を支援する公的なサービスは、「身体障害者」「知的障害者」「障害児」の3者が、必要に応じて市町村から情報提供やサービスを受けるための相談支援を受け、利用するサービスの種類ごとに支援費の支給を受けるものでした。しかし、サービスの利用者が非常に多くなり、国と地方自治体だけでは財源の確保が難しく、全国共通でない制度は地域によって提供できるサービスにも違いが出てしまいました。それは、支援費制度の地域格差へとつながりました。それに加え、精神障害者は支援を受けられないという問題もありました。
そういった問題を解決し、障害者が暮らしやすいようにという願いをもって2006年に生まれたのが冒頭にも書いてある障害者自立支援法です。
障害者自立支援法は、5つのポイントにおいて、以前の制度より革新的であるといわれていました。
障害者自立支援法のポイント(独立行政法人福祉医療機構より)
1.障害者の福祉サービスを「一元化」
身体障害、知的障害、精神障害という障害の種類に関係なく、共通の仕組みによって共通のサービスが利用できるようになりました。
2.利用者の利便性向上
サービス体系を見直して利用者がわかりやすく使いやすいものになりました。33種類に分かれていた施設体系が再編されています。
3.就労支援の強化
働きたいと考えている障害者に対して、就労の場を確保する支援の強化が進められています。
4.支給決定のプロセスを明確化
全国共通のルールに従って、支援の必要度を判定する尺度(障害程度区分)を導入し、支給決定のプロセスを明確にしました。
5.安定的な財源を確保
国の費用負担の責任を強化し(費用の2分の1を負担)、同時に、サービス費用をみんなで支えあう仕組み(原則として費用の1割負担)になりました。
この5つのポイントが達成されているのなら、友愛を謳っている現在の内閣が、この制度を廃止するとは思えません。何が障害者自立支援法を廃止の方向へ進ませているのでしょうか。
この制度のポイントのひとつに就労支援があります。それは、その名の通り、障害を持った方が働くことのできる職場を増やそう、区別なく働ける世の中をつくっていこうということですが、なかなか社会に浸透せず、全くと言っていいほど進んでいないのが現状です。おそらく、就労支援を行い、障害者が賃金を得ることができれば、良いサービスをしっかりと受けることができる、という計画だったのでしょう。しかし、実際のところ、就労支援は進んでおらず、ただ負担が増えただけ。おまけにサービスを受けようにも施設がないという問題まで起こっています。これは、障害者自立支援法を施行する前の状態と変わっていません。
それと同時に、サービスの地域格差も問題とされています。障害者対策を盛んに行っている地域は、非常に手厚いサービスをうけることができますが、そうでもない地域では・・・という状態です。それは、地域の財政状態にも大きく左右されます。要介護や要支援の認定率の差が地域ごとに出てしまうのも、地域の財政状態が原因であるといえます。
では、実際に「廃止」となった場合、どのような影響が出てしまうのでしょうか。
一番懸念されていることが、代替案が出ないまま廃止になってしまうことです。もしそうなってしまうと、医療費が全額自己負担となり、原則1割負担である現在の状況と比べることもできないくらい厳しい状況となってしまいます。
現政権は、野党時代からこの障害者自立支援法の廃止を訴えており、代替案を考える時間は多分にあったと思いますが、現時点で良案がでていないのは残念でなりません。
障害を持っている方を、一概に弱者と決めつけることはできませんし、してはいけないことです。しかし、現に生活に支障をきたし、助けを必要としている方を見捨てるようなことはしてほしくありません。
最近、“政治家”のお金を追及する場面ばかり目にしますが、本来の目的である“国民の生活”のお金に関わる制度のあるべき姿を追求する場面をもっと見たいものですね。
株式会社 住まいと保険と資産管理
ファイナンシャルプランナー 中島 浩一