【主婦FPが語る】いまどきの生活のしくみ


● ホンキで“買う”気と“勝つ”気がなければ、切りましょう!
◇ 4/17 ◇ 高原育代(AFP)

 桜のシーズンも終わって春爛漫。 春という季節は、それだけでウキウキと気持ちも軽〜くなってしまいます。 ブラウスの一枚、口紅の一本ぐらい新しいものが欲しくなって、つい買ってしまった りすることもありますよね。

 つい買ってしまったとしても、自分が「買いたい」と思って買ったものなら、気持ち は満足、そしてハッピーなはず。これこそ、本来のショッピングだと思います。 でも、「買おうと思っていない」ものをいつの間にか「しかたなく買う」ことになっ てしまっていたという、後味の悪い買い物をすることになってしまうと、春のウキウ キ気分が吹っ飛んでしまいます。

 私たちの身の回りには、ちょっと気を許すと「買う」つもりのないものを「買ってし まう」羽目になってしまうセールスがあちこちにあります。

 私は、現在、京都の北端・丹後半島に住んでいます。 あたりは田園風景広がるのどかなところで、地域のつながりのまだまだ深いところで す。各戸には、地域の事務所から、有線放送を通じて、地域の情報が流れてくるよう になっています。

 たいていは、朝や夜に放送が入るのですが、緊急の場合には昼間にも放送が入りま す。 先日、こんな放送がありました。

 「無料でうどんを食べさせたあとに、高価な布団を売りつける悪質な業者が町内に入 り込んでいるようですので注意して下さい。」

 お年寄りが多い地域ですので、ときどきこういった悪質なセールス業者が他地域から 入り込んでくることがあるのです。

“うどん”で“ふとん”とは、シャレにもなりません。 「タダ」より怖いものはやっぱりないのです。

 お子さんをお持ちのご家庭なら、教材販売のセールスを経験したことがあるはず。 小学生の子がいるわが家にも、とある出版会社のセールスギャルが訪問にやってきま した。

 教材一括販売のみで、しかも一式30数万円。 ご近所で、買う気がなかったのに、なぜかアッサリ買ってしまったあと、悩んでおら れるお母さんの噂を聞いていた私。 「いかにして『買う』気のない人に、短い時間で、高額な商品を『買わせる』ことが できるのか」に興味があったため、話を聞いてみることにしました。

 もちろん、私に“買う”気はありません。 ただし、“勝つ”気はありました。 というのは、独身時代、ある有名進学塾で講師として勤めていたこと、今も町内で学 校教育に関わっていることなど、この分野に関しては断りきれる自信があったからで す。

 「お母さん、この算数の問題、どうやって解くか知っていますか。お母さんの時代で は、学校でマルがもらえないんですよ」なんて、普通のお母さんなら、自信をなくし てグラッときそうなセリフ。

 高学年の理科などになってくると、ふだんの生活では使わない、忘れてしまった用語 も出てきます。 「昆虫の中で、幼虫から成虫になるときに、サナギになるものとならないものがあり ます。これらをそれぞれどう呼びますか」なんて、何十年も前のこと忘れてますよ ね、普通は。(ちなみに、答えは完全変態と不完全変態)

 そういった、心理的に痛いところをつき、一気に攻勢をかけて、1時間程度の間にな んとかして申込書に名前を書かそうとするのです。 用意してきた質問にすべて答えた私を相手にしても、最後までひるまず申込書をつき つけていた営業トークには、なかなか感心してしまいました。

 が、こんなことは今まで一度きりです。 わが家にも最近よくかかってくる、ある商品取引会社からの電話の場合には、私の対 応はまったく違います。

 仕事がら、雑誌や新聞で新しい金融商品や興味をひかれるものを見つけると、資料を 請求することがあります。 たいていの場合、資料が届いたあとに、わざわざ電話で連絡をしてきて、勧誘される ようなことはありません。

 でも、その会社からは、最初に資料を送ってきて以来、1・2ヶ月に一度は、次々と 名刺入りの資料が届き、しかも土日にまで電話がかかってくるのです。 もともとは、少額で買える商品ファンドに興味を持ったので、資料請求をしたのです が、成績が思ったほどではなかったので、購入する気にはなりませんでした。

 それにしても、これだけ熱心に、資料代の経費をかけ、ましてや休みの日にまで電話 をかけてくるということは、おそらく、もし取引を始めることになれば、さぞや「儲 かる」展開が待っているのだろうと思わざるを得ません。 もちろん、「儲かる」のは、“私”ではなく、その“会社”が、です。

 ところが、当然勧誘の時点では、「ゼッタイに儲かりますよ」と言って“私”が大儲 けできるかのようにしかけてくるのでしょう。

 『でしょう』と言ったのは、私は実際には「ゼッタイに儲かりますよ云々」というと ころまでのセールストークを聞いたことがないからです。
話を聞けば、ゼッタイに相手のペースに巻き込まれて「買う気のないものをしかたな 買ってしまう」ことになるでしょう。 なにせ、相手はプロですから。

 というわけで、相手に“勝つ”自信がない場合、話の中身に入るまでに電話は切るこ とにしています。

 最近、そういった商品取引会社とのトラブルが急増しているそうです。 布団や教材販売のセールスに比べて、トラブルの金額は多大なものになるため、国民 生活センターや地方自治体の消費生活センターに寄せられる相談・苦情の件数は右肩 上がり。

 相談者の多くは、若年サラリーマンや主婦、年金生活者など、そういう取引には今ま で未経験だった人たちが多いようです。 つまり、プロを相手にしては勝てるはずのない人たちが、つい買ってしまったことか ら悲劇が始まってしまったのでしょう。

 「電話での強引な勧誘を断り切れず…」とか「その後家庭や職場にまで押し掛けてき て…」というトラブルの内容を見ていると、やはり私たちが取るべき手段としては、 話を聞かないこと。つまり、相手が内容についての説明を始めるまでの時点で切って しまうこと。

 “買う”気と“勝つ”気がないのなら、相手に自分の領域まで踏み込ませないこと が、トラブルから身を守ることになるのではないでしょうか。