【主婦FPの視点】経済ニュースなんてコワくない!


◆破綻寸前?医療保険制度改正案は救世主になるか
○ 11/03 ○ 西島直子(AFP)

 日本の国民全体の医療費はいったいいくらかご存知でしょうか?
 現在約30兆円、毎年だいたい1兆円ずつ増加していて、そのうち、老人保健制度(*)に おける医療費が約11兆円、1/3以上も占めています。

 サラリーマンが加入する健康保険制度は、老人医療費の急増に伴ってこれにあてる費用 (支出)が増えたこと、不況に伴ってお給料によって決まる保険料(収入)が減ったこと で財政が悪化しています。

 老人医療費は、国・都道府県・市町村と、国民健康保険など各医療保険が費用を負担し ているため、老人医療費が増えると各医療保険制度の財政が苦しくなるのです。

 年を重ねると、若いときに健康な人でもどこか病気になったり調子が悪くなるものですが、 少子高齢化のピークをこれから迎える日本にとっては、この老人医療費がどんどん膨らんで いくことは非常に大きな問題です。
 とはいえ、保険料収入を増やすことは、老人医療を受ける人、働く世代にとっても負担が 増えるため限界があります。

 大雑把に見てきましたが、財政悪化で行き詰まっているこの医療保険制度、病巣を取り除 く大手術が必要ですね。社会保障制度が破綻しないように、医療費そのものを抑えることが 必要不可欠なわけです。

 実は、医療に関する様々な問題は今から3年ほど前にも取り沙汰され、政府は2000年 4月に医療保険制度の抜本改革を行うと約束していました。  ところが、様々な関係者の思惑が複雑に絡み合って調整が取れず、ズリズリと先送りにさ れ、その改革はとうとう2002年度へと持ち越されました。

 今回11月1日に医療保険改正案が衆院厚生委員会で強行可決されたのは、制度自体の改 革ではなく改正で、言ってみれば病気の手当て程度でしょうか。
 手当てを施したあと、病気の経過を見ながら次の治療方針を考えましょう、といった感じ かもしれません。

 ただ、総選挙の前ということもあって4月の国会で先送りされた医療保険制度改正案がよ うやく進みはじめたことは、緊急避難的に財政の悪化の度合いを小さくするので、議論を重 ねた上で、公平性があって納得のいく改正をしてもらいたいものです。

 では、実際私たちの生活にどう影響してくるのか、医療保険制度改正案をとりわけ財政部 分にターゲットを絞って見てみましょう。

 この改正案の影響はどの世代でも受け、お年寄りは老人医療費の定額負担から定率負担へ と改正されると、貯蓄がなく低所得の方の生活は非常に厳しくなります。

 若い世代はさらに深刻です。高額療養費(*)が上限を超えた分の負担がゼロから1%の定率負 担をする仕組みに変わることで、現在から将来に向かってこの先ずっと、大病になればなる ほど医療費負担が増える一方だからです。
 さらに、ライフプランを描きながら必要に応じて契約する民間の生命・医療保険は、社会 保障を考慮に入れているわけですから、先にあげた2つの改正がもとで医療費負担リスクが 大きくなれば、その見直しを迫られ、保険料の負担が増えることになります。

 お金のかからない対策としては、医療保険のお世話にならない健康体でいることになると 思いますが、これは誰にでも出来ることでもあり、難しいことでもありますね。

 又、ひとつ嬉しいニュースとして、育児休業中の医療保険料が今まで本人分のみ免除され ていたものが、事業主分も免除されることになりました。 これによって、育児休業中の場合は社会保険料の負担がなくなり、育児休業後の仕事復帰を 望む人や会社にとっては、経済的な面で育児休業制度を利用、支援しやすくなります。

 さて、何の影響も受けないのは、医療機関。しっかり医療報酬は今までと変わらず入って きます。なんとも腑に落ちないですね。


 (*)老人保健制度のポイント
  原則、70歳以上の方を対象とした医療制度で、診療を受けたときの負担が軽減されている。
  現行は原則、外来は1回530円(1月4回まで、5回目以降無料)、入院は1日1200円の定額制となっている。

 (*)高額療養費について
  http://www.shufunotomo.co.jp/shufunotomo/9811/sittoku_d.html