【主婦FPの視点】経済ニュースなんてコワくない!


◆株主よ立ち上がれ!
○ 10/13 ○ 鹿野さち子(AFP)

 95年、大和銀行ニューヨーク支店の行員が11年に渡って債券を無断で売買し、約11億 ドル(1兆2千億円)もの損害を発生させた事件は記憶に新しいと思います。

 損失を出したその行員はすぐにクビ。銀行側から訴えられ、ニューヨーク司法当局か ら禁固4年、罰金200万ドルの実刑を受けました。しかし彼は獄中で「告白」という暴露 本を出だして、「自分と同じ状況だったら誰もが同じことをやるだろう。」と開き直っ ているということです。

 先月、大阪地裁からこの事件の「株主代表訴訟(かぶぬしだいひょうそしょう)」に 対する判決が出ました。 この舌をかみそうな名前の訴訟は「会社の取締役が会社に損害 を与えた場合、6か月以上続けて株を持っている株主が、会社に代わって取締役の責任 を追及できる。」という商法上の制度です。

 この事件の場合も損害を出した行員ではなく、その上司に当たる取締役が行員の監視 義務を怠ったとして大和銀行の株主から訴えられていました。

 大和銀行の判決が世間に衝撃を与えたのはその賠償額の多さ。当時の取締役11人に対 しての賠償額が7億7千500万ドル(日本円で約830億円)そのうち当時のニューヨーク支 店長に約560億円もの大金の支払いを命じるとい前代未聞の額となりました。

 「株式会社制度」の中では「株主は会社の所有者」、「取締役は経営者」という位置 づけです。つまり株式会社は「会社を所有する人と経営する人が別」という形態をとっ ていることになります。

 本来、株主は会社の所有者に過ぎず経営に関与しないわけですから、経営側に問題が あったために業績が悪化して株価が下がった場合、誰にも文句が言えないのです。

 そこで事後的な措置にはなりますが、問題を起こす原因となった取締役に、会社の損 害を弁償させるよう訴えるというのがこの「株主代表訴訟」なのです。

 以前はこの訴訟を起こす場合、申し立て時の手数料について「賠償金額の何パーセン ト」と定められていたのでとんでもない手数料が必要となることがありました。しかし 平成5年の商法改正で1件につき8200円(印紙で納入)で済むようになり、訴える場合の 株主の負担はずいぶん少なくなりました。

 しかし、勝訴した場合、取締役から勝ち取った賠償金は誰のものになると思います か? 株主が「会社に損害を与えた取締役」に対して「会社のために起こす訴訟」なの で、すべて「会社のもの」となってしまうのです。(ただし弁護士費用や裁判所までの 交通費などは後から請求することができます。)

 そういうワケですので「株主代表訴訟」はいくら手数料がディスカウントされても 株主自身にとってさほど“おいしくない”制度とも言えます。

 しかしながらこの数年間で株主代表訴訟は次々に起こっています。そごうの旧経営陣 もこれで訴えられていますし、最近の記事では、債券放棄を受けたゼネコンのハザマと 熊谷組の株主が各社の取締役に対して、「会社が経営危機に陥っているのに多額の“政 治献金”をしたのは取締役としての注意義務を怠った」として株主代表訴訟を用意して いると言うことです。

 企業の業績が厳しい時代となってから十年余り。おそらく「こんな時代だからこそ経 営者たるもの、正々堂々と会社の利益のために最善の努力をしなければならない」とい う風潮になってきているのが大きな原因でしょう。

 「株主代表訴訟」が頻繁となることで役員側は高額の報酬や社会的地位と引き替えに 「常に訴訟を起こされるかもしれないという爆弾」を抱えることになります。しかしそ の反面「会社に何かあったときは黙っちゃいないよ!」という「闘う株主」が出現しだ したことは、古くからの権力や慣習、政治などの圧力に流されがちだった日本の株式会 社にとって非常に意義のあることだと思います。

 「代表訴訟」の力で違法な「総会屋への利益供与」や「政治献金」などがこの世から なくなればシメたものではないでしょうか?

 大和銀行の例は取締役自身は「悪いことをした」ワケではないのでちょっと気の毒な 気がしますが、それだけ大企業、とりわけ金融機関のあり方が問われるべき時代である ことを物語っているのかもしれません。